床にスーツの男
今年の目標は1に健康、2に健康。
毎年すぐに体調を崩す僕ですが、この冬は大変すこぶる健康体の僕なのであります。
妙に雪が降ったでしょう。
今冬は雪が少なくてなんていうニュースもあったと思いますが、いくら少ないといったって、どっさり雪が降れば当然雪かきをしなくてはならない。
その日も僕は駐車場で、同僚と車の雪下ろしをしていました。
「そういえば去年、雪かきでぎっくり腰になった人がいたなぁ~ははは」
「嫌味な上司だったなぁ~ははは」
「こらヒロ君、露骨な悪口は控えたまえ」
「ははは……」
などと笑いながら、
僕はその場から動くことができなくなった。
腕をのばせば激痛が走る。
足をずらせば激痛が走る。
笑っただけでも激痛が走る。
「腰の様子がおかしくなった」
「嫌味なあいつがぎっくり腰なんざ自業自得だね」などと笑い飛ばしていた僕は、もう歩くことさえできなかった。
他人の不幸を笑ってはいけないんだ。
僕は雪の駐車場にヒロカーを残し、同僚に家まで送り届けられた。
まさかこの年になっておんぶで運ばれることになるとは思わなかった。ダイエットしておいてよかった。もうすぐ55キロになりそうなんだ、俺やせたでしょう。
残業を終えた妻が帰って来たのは夜の10時を過ぎていました。
リビングの床で力尽きた僕を見て、妻は「え、なに?」といたってクールな反応。
「なに、ドッキリ?」
「おかえり。待ってたよ」
「え、なに、ドッキリのためにずっとそうやってたの?」
「そうじゃないよ」
「ごめんね、もっと驚いてあげればよかった」
そうじゃないのにドッキリ失敗したみたいな気持ちになって恥ずかしくなり、「べつにドッキリとかじゃねーし」と意を決して起き上がろうものなら、地獄とはこのことか、背中から首筋まで一気に激痛が走り抜ける。
やっとの思いで「湿布を」と言う僕を見て、ようやく状況を理解した妻の「まさかぎっくり腰?ちょっと勘弁してよ~ははは」という笑い声、忘れません。
他人のぎっくり腰を笑ってはいけないんだ。
今年の目標は1に健康、2に健康。
毎年すぐに体調を崩す僕ですが、この冬は大変すこぶる健康体の僕なのであります。
腰 以外はね。